身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
「琴音、待たせた」
扉を開けて入ってきたのはもちろん、娘の父親であり琴音の夫の閑だ。今日退院のふたりを迎えに来てくれた。
「大丈夫、もう退院準備は出来てるよ」
荷物は既にバッグにまとめてある。閑はまず真っ先に琴音に近づき、上半身を屈めてキスをした。
「身体は大丈夫?」
「うん。まだちょっと足が重たいけど、歩けるしそんなに痛くないよ」
そう言うと、閑は微笑んで二度目のキスをする。
「お義母さんは? 迎えにくるって言ってたけど」
「俺が行くから来るなと言っといた。テンションが上がりすぎてて落ち着かない」
疲れたような顔で閑が笑い、琴音も苦笑いをした。
あんなに男にこだわっていた優子だったが、琴音が娘を産んだと知ったその日。ぼろぼろと涙をこぼしながら、琴音の手をぎゅっと握った。
『大丈夫よ! 誰になんて言われようと、私が守って上げます。たとえ女の子でも二宮の大事な子なんだから』
取り乱した様子に琴音は驚いて、逆に優子を励ましたくらいだ。
後になって閑とふたりで話をした。優子は跡継ぎを望まれながら中々できなくて、閑を妊娠中も男を産むようにと言われ続けていたから、それが呪いのように優子の中に根付いているのじゃないかということだった。
男じゃなかったら、責められる。その強迫観念がまだ忘れられないのではないか、と。