身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
再会と震える心
琴音が無事退職し、それから結婚式までの三か月。少しはゆっくりと距離を詰めていけるかと思えば、そこからはこれまで後回しにしていたことを熟していかなければいけなかった。
改めて二宮と染谷それぞれの実家に挨拶に行き、染谷家では不出来な娘で申し訳ないと閑に平身低頭だった。
琴音が職場に強く言えず仕事を捌ききれなかったために中々話が進まなかったのだから、仕方がない。
『しょうのない子だから』
聞き慣れた言葉でいつもなら聞き流す琴音も、閑の前でそれを連呼されるのは恥ずかしかったけれど。
『しっかり責任を持って仕事をしてきていた証拠です』
そう言って庇ってくれた閑に、琴音は黙って聞いていたけれど、ほっと力が抜けるのがわかった。安堵した。両親の前で小さくならなくても、これからは閑が自分を認めてくれるのだと思えたから。
言われた両親はというと、更に閑に惚れ込む結果となった。
琴音にとって、かなりの緊張を強いられたのはもちろん二宮家での挨拶だ。どどんと大きな門構えの本宅に、まずは圧倒された。そこから既に、かちこちになっていた。
子供の頃いつも招待されていたのは、別荘の方だ。本宅に来たのはこれが初めてだ。都内の高級住宅街にある二宮邸は、仕事の利便を考え義父の代で新しく建てられたものらしい。
古くはないが立派な日本家屋だ。祖父の代からの約束とはいえ、本当に相手が琴音で良いのかと心配になってくる。
それに何より、琴音の両親があれほど閑に対して恐縮していたのだ。結婚すると決めてからこれまで挨拶にも来られなかったことを、良く思われているはずがない。たとえ、子供の頃からの付き合いであったとしても、だ。
手土産の和菓子を手に、ぶるぶると震える琴音に閑がぷっと噴き出した。
「ひどいです」
「いや。震え方が子ウサギみたいで」
「本当に緊張してるのに」
「大丈夫、うちは本当に、琴音を歓迎してる。……ただ、喜びすぎて色々言うと思うから全部聞き流せばいい」