想色40season's
「莢果……どうかした? 何か言いたいの?」

震えたしーちゃんの声がする。私はそんなしーちゃんの顔を見てみたかったけど、涙が滲んでいるせいなのか、目がぼやけてきてその表情を見る事が出来なかった。

「ううん……なんでもない」

私は精一杯の笑顔でそう言ったつもりなのに、口が思うように開かずにお婆ちゃんみたいな掠れ声でそう答える。
身体が雪に埋まってしまっているように寒い。
そして私は、次第に自分のものでなくなっていく身体に、逃れられない一つの答えが浮かび上がり、その瞬間、私は瞼をぎゅっと閉じると、止まることのない大粒の涙が耳を濡らした。



そっか……私、もう死んじゃうんだね。



大好きなしーちゃんの目の前で。"初めて"の納涼祭を過ごせずに。

……やっと"トクベツ"になれたのに。

……あの不思議な旅は神様からの最期のプレゼントだったのかな……ううん、違うよね。しーちゃんしか居ない思い出を巡って、幸せだったストーリーの結末がこんな酷いものなんて……やっぱり神様なんて居ないんだ。

救急車のサイレンの音がどんどん大きくなってくる。そしてその音が止まったかと思うと同時に、私の耳だけが何処か遠くへ飛んでいってしまうように周りの騒めきがどんどん小さくなっていく。

……しーちゃん。もっと一緒に居たかったよ。

私は薄れていく感覚の中、最期の力を振り絞って口を開いた。

「生まれ……変わっても……絶対……逢いに……行くから……ね」

私は最後まで言う事が出来たのかな……

あの優しいしーちゃんの声はもう聞こえなくなってしまった。すぐ近くに居るはずのしーちゃんの姿も、今日初めて見たしーちゃんが着ていたあの服も、私を落ち着かせてくれるあの匂いも……全部何処か遠い場所へいってしまった。

……私の身体はもう私のものでなくなっちゃったんだね。

そして私はどんよりとした漆黒の闇に包まれた。


……今、自分が泣いているのか、目を開いているのか、そして呼吸をしているのかさえも分からないまま、とても長い長い時間を過ごしたような気がする。
次第にそんな事を考える事さえも出来なって、私はこの世界から引き離され、誰の干渉も受けることの無い、完全なる無の領域の一部になってその存在を消した。
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