想色40season's

めくられたページ

近所のおばさんの話では私の家はどちらかというとユウフクらしくって、昔から私が欲しいという物は何でも買ってくれた。って言っても私が欲しいって言うのはお菓子とか可愛い文房具とかだけだけど……
休みの日には必ず私の食べたいものをお店に食べに行くし、私が行きたいという場所にはいっぱい連れて行ってくれる。
それにお父さんもお母さんも絶対に怒らない。もちろんやっちゃいけない事をすれば怒るけど、それは私の事を思って言っていることだって分かるような優しい言い方で怒る。
前に"何でお父さんもお母さんもそんなに私に優しいの? "って聞いたらこんな話をしてくれた。
同級生同士で結婚をした私のお父さんとお母さんは、三十歳を過ぎても子供が出来なくて、もうダメかなって諦め掛けていた頃、奇跡的に私がお腹にやってきたそうだ。
でも、"超早産児"っていうので産まれた私は、産まれてからすぐにエヌアイシイユウ? とかいう難しい名前の場所に移されて、お父さんお母さんは寝る事もできずに私の無事を祈っていたんだよ、って言っていた。
でもその心配をよそに、私はお医者さんが驚くほど元気で、何もないまま退院すると、それからも"健康"の二文字そのままにすくすくと成長して、九歳となった今ではそんな出来事があったなんて信じられないけど、奇跡としか言いようの無い氷雨(ひさめ)の存在は、お父さんたちにとって何よりも一番なんだよ、って。

そしてお父さんはそんな私に"氷雨"という名前を付けた。
氷と雨とか、冷たそうでジメジメするようなあまり良くないイメージのする私の名前だけど、お父さんが言うには"凍らずして降り続けるその雨の名のように、凍ってしまうような辛い事があっても、凍ること無く自分の進むべき道を進んでいって欲しい"って想いを込めたんだぞ、なんてちょっと難しい事を言っていた。意味はよく分からないけど、いい意味って事は間違い無いと思うから私は自分の名前が好き。
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