想色40season's
街の明かりが灯り始めた路地の先に、待ち合わせ場所の小さな神社が姿を見せると、私は呼吸を整えつつゆっくりとした足並みへと戻す。そして目線より少し高い神社の境内を玉垣の隙間から横目で覗くと、古びた小さな拝殿前の石段に座っているしーちゃんの姿を見つけた。
なぁんだ、しーちゃんは私服か。
何を期待していた訳でもないけどちょっぴりがっかりした私は、そのまま神社の外を回って境内への入り口へと足を進める。
そしてこの神社で一番大きな御神木の陰に隠れて髪の毛を整えると、"ふぅ"と息を吐いてから浴衣の乱れがないかを確認して木陰から足を踏み出した。

さらさらと樹々が擦れ合う涼しげな音に私が歩く度に鳴る砂利の乾いた音が重なり合っていく。
すると私に気付いたしーちゃんがパッと立ち上がって手を振った。
いつもの笑みが神社の薄暗い蛍光灯に照らされて私に安堵の感情が戻ってくる。
そして私はしーちゃんへと駆け寄り、ずっと言ってみたかったあのセリフを口にしてみる。

「ごめんっ、待った?」

そんなよくあるセリフを言ってみたけど、しーちゃんの返事は、やっぱり恋愛小説には出てこないような、しーちゃんらしいものだった。

「十分くらい待ったかなぁ?待ち合わせの時間くらい守れよなっ」

"こういう時は女の子は遅れた方が可愛いのに!"って思ったけど、そんな既成の物語みたいに進むなんてつまんないか、ってこの時の私は無理矢理思い込むことにした。

だけどこの場面を改めて見返すとやっぱりしーちゃんは"全然待ってないよ"って言うべきだったんじゃないの? なんて思ってしまう。

「しーちゃんだってメールくれた時には待ち合わせの時間過ぎてたじゃん」

「え? そうだっけ? まぁいいじゃん」

しーちゃんはそう言って私の横を通り過ぎると足を止めた。

「てか……浴衣、似合ってんじゃん。最初、モデルとかかと思った」

この言葉でさっきまでの私の不満が綺麗に消し飛んでしまった。背中を向けたままのしーちゃんの表情は分からないけど、きっと恥ずかしいのに頑張ったんだろうな、って思った。
そんな、今までと同じようで同じじゃないそんなしーちゃんに、私は今まで以上に惹かれていくのが分かった。

「どうせプラモデルとか言うんでしょっ」

照れ隠しでそんな事を言った私はちょっと子供だったかな……

「プロモデルだよ」

思いもしなかったその返しに何も言えなくなって頬を染めた私。"ありがとっ"とでも簡単に言っておけば私の胸がこんなにも甘酸っぱい気持ちで一杯になる事もなかったのかもしれない。
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