右へならえ

本当に綺麗な人だ。
ずっと眺めていたくなる。
竜之介さんの隣にいる人が羨ましい。

夢みたいだ。
今、私が竜之介さんの隣にいる。
でも、シンデレラの時間は終わりだ。

｢竜之介さん｣
｢うん｣
｢私、そろそろ帰りますね？｣
｢ごめん。今日なんか用事でもあった？｣
｢何もないですよ。
でもシンデレラの時間は終わりですから｣
｢……？何それ？｣

優しい顔で笑った。

｢もう魔法は解けちゃいました｣
｢……｣
｢竜之介さんは、
みんなが憧れる王子様だから｣
｢俺が王子様？｣
｢そう。昨日だけは私が独占できましたが
今日からは、
またみんなの竜之介さんですから｣

好き過ぎて胸が苦しい。
このままずっと
竜之介さんの隣にいたくなってしまう。
でもそれは叶わないこと。

昨日、お兄さんにも
忠告された。

わかってる。
叶わない恋だと。
私のこと好きになるはずもないと。
でも、もう会うこともないなら
後悔したくない。
じゃないと、
私、次の恋に進めない。

｢好き……｣
｢……麻知ちゃん？｣

驚いた顔で私を見る。

恥ずかしくて、俯いた。

でも後悔したくない。
あなたがカットして綺麗にしてくれた
私を見て欲しい。
だから私は、顔を上げて最高の笑顔で
竜之介さんを見つめた。

｢竜之介さんが好きです。
付き合ってください。
って彼女いますか？｣
｢彼女は作らないんだ。
俺は、忙しいし、
麻知ちゃんを悲しませるよ。
女友達と遊ぶし、お客さんも女性が多い。
だから俺といても悲しくなるだけだよ｣
｢だから彼女は作らないんですか？｣
｢そう。最終的に言われるのは、
私のこと本当に好きなの？ってね。
だから俺は誰とも付き合わないの｣

悲しい表情をする竜之介さん。
もしかしたら、
竜之介も自分のことを理解してくれる人を
探しているのかな？

｢私。文句言いません。女友達と遊ぶのも
仕事が忙しいのも、何も言いません。
だから私と付き合ってください｣
｢それじゃぁ、麻知ちゃん。
辛いだけだぞ。そんなのいいわけないだろ｣
｢竜之介さん。優しいんですね。
普通だったら、都合のいい女、
ラッキーって思うところなのに。
あっ、ラッキーじゃないか。私じゃ。
竜之介の周りには、
綺麗な人ばかりですもんね。
ごめんなさい。
今言ったこと忘れてください｣

私は恥ずかしくなって、
バッグを持った。

｢色々お世話になりました。
竜之介さん、お元気で｣

私はリビングから出て
玄関へ走った。