溺愛旦那様と甘くて危険な新婚生活を
待っている間、花霞は彼と出会ってからの事を思い出した。
彼が助けてくれた事から始まり、結婚し、いろいろな幸せを彼が教えてくれた。
椋はミステリアスな部分もあり、秘密も多かったけれど、それでも花霞を好きだという気持ちは、言葉でも態度でも伝わってきて、大好きになった人にそう言われるのが堪らなく幸せで、これが「愛しい」という気持ちなのだと知った。
少しずつ、暗雲が見え始めても椋への思いは変わらなかった。
むしろ、彼を知りたいと思ったのだ。
だから、避けたり逃げたりしないで、自分から踏み込みたい。そう決めたのだ。
椋がその日、家に帰ってきたのはリビングに夕日が入り込み真っ赤に染まった頃だった。いつもより早く帰ると言った通りに帰ってきてくれたようだ。
花霞は、彼の気配を感じすぐに玄関へと向かった。
「椋さん………おかえり。」
「あぁ…………。」
玄関で靴を脱いでいた彼に近づいた。
声を掛けると、ゆっくりと椋がこちらを向いた。
そこには、全く優しい微笑みがなく、何回か見たことがある、冷たい目線と、無表情があった。
花霞は、それを見てまた体を固まらせてしまった。
まだ、彼は書斎には入っていないはずだ。彼が怒っている理由はそれではないはず。
椋の態度が変わった理由がわからなかった。
「椋さん。私、話したいことがあるの。」
「…………俺も、話しをしようと思ったんだ。……リビング行こう。」
「うん。」
花霞の方を見ずに、椋は花霞の脇を通り抜けてさっさとリビングに行ってしまう。
「ただいまのキス…………。」
椋がただいまのキスをしなかったのは、この日が始めてだったのだ。彼に聞こえないぐらいの呟き。小さな事だけれど、花霞はショックを受けてしまっていた。