溺愛旦那様と甘くて危険な新婚生活を
★★★
花霞は椋に抱きついたまま、すやすやと寝てしまった。
今日は誕生日という事で彼女を連れ回してしまったので、疲れてしまったのだろう。
椋は起こさないようにゆっくりと彼女の体をベットに下ろし、いつものようにベットから降りようとした。
けれど、今日はそうもいかないようだった。
花霞が、椋のシャツの袖をしっかりと握っていたのだ。椋は思わず微笑んでしまう。ゆっくりと彼女の手を取り、その指を剥がしてしまおうと思った。
けれど、今度は花霞の表情が曇った。
ぐっすりと寝ているはずなのに、まるで起きているかのようだった。
「………今日だけ、ここに居るよ。」
そう言って、椋はベットに戻り彼女の頭を優しく撫でた。
すると、嬉しそうに笑い自分から体を擦り付けてきた。
椋の胸はドキッと大きく鳴った。
「………こうなる事はわかってたはずだけど………。やっぱり辛いな………。」
椋は少し先を思うと、険しい目付きになってしまう。それと同時に、寂しくなる。彼女と離れたくない。
「………きっと花霞ちゃんは泣いてしまうだろうな。」
椋は、指で花霞の頬に触れた。
この白くて柔らかな頬に涙が流れるのを、椋は見たくないと思った。
けれど、それは難しいようだった。
「ごめんね、花霞ちゃん。だから、今だけは………。」
椋は許しを請うように額にキスをした。
けれど、それは椋が自分自身に言い聞かせているのだと、彼にはわかっていた。
「ごめん………。許してもらえなくてもいいから。俺の事も忘れていいから。だから、君には幸せになって欲しいんだ。」
椋は優しく花霞を抱きしめて、届かぬ思いで彼女に謝り続けた。