人間サイコロ
「でも、良いのか……?」


先生はニッパーを握りしめたまま立ち尽くしている。


「死ぬよりマシです。爪なら、きっとまた生えてくる」


覚悟を決めた言葉に、あたしの胸は痛くなった。


どうに過去の状況を打開できないか、もう1度スマホを取り出して確認する。


しかし、やはりこの部屋は圏外になっていて、誰にも連絡を入れることはできなかった。


「早く、先生」


目が見えないイクヤは、自分で自分の爪を剥ぐことができない。


誰かがやらないといけないのだ。


あたしはグッと恐怖を押し殺し、イクヤの体を後ろから抱きしめた。


拘束するのではない、安心させるためだった。


「先生……お願いします!」


カウントダウンはいやおうなしに進んで行く。


残り3分を切っていた。


その中で全部の爪を剥がすのは、時間的にもギリギリだ。


「わ、わかった……」


先生は震える声でそう言い、ニッパーを握り直したのだった。
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