薬指に愛の印を
その後、せとかはオメルにあの三人の男性については何も訊かなかった。ただオメルに優しく触れ、エジプト観光を楽しむ。

やがて夕方になった。二人はルクソール神殿を訪れていた。ルクソールの中心部に位置する巨大な神殿だ。敷地内には教会やガーマも作られており、見どころが満載の観光地。夜になるとライトアップがされ、幻想的な世界が見える。

「とても歴史を感じる場所だね。昔はこの場所が首都だったんでしょ?」

いつものように明るく笑うせとかに、オメルは「そうだよ」と微笑む。しかしその微笑みはどこかぎこちない。

「せとか」

オメルは急に立ち止まる。せとかが振り返ると、オメルはとても真剣な顔をしていた。

「君は、いつだって明るくて優しいんだね」

「……えっ?」

突然そんなことを言われ、せとかは戸惑う。オメルはせとかに近付き、微笑む。

「覚えてる?初めて会った時のこと。人見知りでうまく話せなかった僕に、せとかだけが一生懸命話しかけてくれたんだよ。それが……僕にとってとても嬉しかった。僕は人見知りで、この国にいてもよくいじめられていた。日本で君と会って、たくさんの友達ができて、本当に幸せなんだ」
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