演技じゃなくて
その瞬間、ふっと空気が変わって、咲は人が変わったようにその役に入り込む。


おしとやかで、繊細で、上品な女の子になるのだ
。彼女は、少し目を細めて、お気に入りの曲を聴
いている。



俺は、それを合図に彼女を想っているのにずっと伝えられない、不器用な男の子になる


…なんて、そんなの、まんま俺だ。


この台本をもらった時に思ったんだ。
この男の子と、俺はそっくりだ。


女の子と咲だって、芯が強いところは同じだ。


この映画と俺たちが違うのは…





片想いか、両片想いか、だ。



「咲。」




彼女は自分が呼ばれてることに気づき不思議そう
な顔でこっちを見る。


「俺な、ずっと前から、咲が好きだ。」


当然、彼女から涙は出ない。驚いたように動きを
止めて、いつもの咲に戻る。こんなこと、予想は
ついている。


けれど、いつか。


いつか、ふたりで夢を叶えた時。


その時は演技じゃない、嬉し涙を流させてやる。


待ってろよ、咲。

fin.
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