【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
あたしは傘を少し下げて顔を隠した。


ぐちゃぐちゃで泣いてる不細工なとこ灰野くんにみられたくない。


雨が激しい。
空がピカっと光って、すぐに地面が割れるような音。


「ひゃっ」と思わず声が出て肩をすくめるあたしを灰野くんが、ふっと笑った気がした。




「危ないから送ってく」



灰野くんはそう言ってあたしの隣に来て、傘に傘をぶつけた。


「なんか藍田さんと帰るの懐かしい」



揺れた傘から雨粒が流れ落ちる。


「……うん」


付き合っていた一カ月、毎日一緒に登下校していた、あの時みたいだ。


ドキドキ鳴る心臓はずっと落ち着かなくて、そわそわして。


沈黙の中で、言葉をずっと探していた。今みたいに。


何を言っていいのかわからなくて、あたしはタオルをきゅっとつまんで


「……タオルありがと」と雨音に消されそうな声で言った。



「うん」と返ってきて聞こえていたことに安堵する感覚もすごく懐かしい。


「……この前、藍田さん弁当を水没させたじゃん」


「う、うん」


「あの時ナギは簡単にタオル投げて、俺何も持ってなくて。だから、いれといた。……藍田さんにつかってもらえて、よかった」


一生懸命つなげた、みたいなこの声が、あたしは凄く好きだった。


思わず見上げた傘の向こうは、相変わらず真っ赤な顔をした灰野くんがいた。



「……今こっち見ないで」

「ふ」

「笑うな」


「ふふっ」


「藍田さん」


「あははっ」


「あーもう……」


灰野くんは傘で遮断する。


あたしは自分の傘の中で笑い続けた。

だけど、目だけはずっと涙が流れてた。嬉しくて仕方なくて。


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