【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
「なんでも……ないの。あは……」
『……そ。かけまちがい?』
「ううん、着信履歴開いてて、間違って押しちゃったみたい。ごめんね」
『そっか』
沈黙が気まずい……!
「あ、あの」
『ん?』
「ううん……」
「え?」
この単語の一つさえない会話といえない会話が10秒の時を凍らせていく。
また「ええっと」と言おうとしたとき。
灰野くんがあたしの名前を呼んだ。
『藍田さん、』
「は、はい!」
『……明日一緒に学校行かない?』
「いいの?」
『いいっていうか……誘ってんのこっちだよ』
ふっと笑ったような吐息が聞こえた気がする。
これ以上ドキドキさせないで。
「うん。うん!一緒にいきます……」
『よかった。じゃあまた明日』
「あ、はいっ」
『「……」』
あれ、切るのかな。
切ったらいいのかな?
数秒の時をかけて、プチンと切れたスマホを握る。
いつのまにか緊張していたみたいで、吐いた息は相当長かった。
寒くもないのに身震いするほど、緊張ばっかりの電話にあたしの頬はずっと火照っている。
うっとりと窓辺に手をついて、外の夕焼けを目に映す。
こんなに綺麗に見えるのも全部灰野くんのおかげ。