【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
「灰野せんぱーい」


その甲高い声にあたしはがばっと顔を上げた。


「……ん?」


のんびりと顔を上げた灰野くんは、すぐ傍まで駆け寄ってきた一年の女子数人に目を向ける。


「あのっ、これ読んでください!!っきゃーーーー!!!」


押し付けるよう手紙を渡して、絶叫しながら去っていく少女たち。


灰野くんは、ため息をひとつついたあとで、封筒(多分4通)を慣れたように鞄に仕舞った。


「相変わらず、モテるんだね……」


中2のころから信じられないほどモテてるのは知ってたつもりだけど。
こんなに一瞬で四人から、だなんて……。


「いや、別に」


仕方ないよ。モテる運命なの、見たらわかるもん。


でも、なんかなぁ。


「ちょっと妬いちゃう……」


本当に小さい声で言ったはずなのに、灰野くんはふっとあたしに目を向けた。


「なにそれ」

ほんの少し笑いを混ぜた声に「聞こえたの?」と返すと「うん」だって。


ひぃ、恥ずかしい。



両手で顔を覆いかけた時。


あたしの両手を灰野くんが「隠さないで」と掴んでしまった。


「……妬いてくれんの?」


覗うような上目遣い?


目が合う。


どうしたらいいの?


もうだめ。十分以上にどきどきしているのに。



「……俺は藍田さんしか見てないから」


そんなこと今言って追い打ちかけないで。


一瞬見えた真剣な目が、すぐにあたしから逸れていく。


ふわっと、あたしの両手を解放した灰野くんは。



「……って。もう死ぬほど恥ずかしい……」



赤面を隠すように顔を背けて、俯いてしまった。




……っ。

あたしは背を向けて、叫びたくなる衝動を抑えた。







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