【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
「ごめん!今日お見舞いに……ナギちゃんにプリン届けたくて!」
両手を合わせるあたしに、灰野くんは「あ、そっか」と声を落とした。
「うん、ごめんね」
「いや、じゃあまた」
片手を上げる灰野くんに小さく手を振る。
灰野くんの背中が山本君にバシンと叩かれて「いてーな」と文句が聞こえた。
そんな後ろ姿に、彗は大きく息を吸って声を飛ばす。
「灰野ー!これ読まなぁーい?」
彗がスリのごとくあたしの手から抜き取ったのは、僕壊の最新刊。
「ちょっと、そんなの灰野くんが読むわけないよ!!」
あたしは慌てて奪い返そうとするんだけど、ひょいひょいっと彗の手によってかわされた。
あたしから逃げた彗は灰野くんに駆け寄って、ペラペラと漫画をめくり「ここ」とページを指をさして見せている。
「ここが、特に重要!」
どこ!?
「……借りていい?」
え?うそ。読むの?
今、漫画が灰野くんの手にわたった。
「返すのはいつでもいいから!」
バシンと彗にまで背中を叩かれる灰野くんが可哀想になるよ。
っていうか、その漫画、あたしのなんだけど!
「灰野くんも僕壊すきなの……?」
「いや、俺は別に……。でも藍田さんはこれ好きじゃん」
「知ってるの?」
「うん」
「知っててくれてるんだ……」
ぽぽぽっと赤くなるあたしは頬を押さえて、笑う。
だって灰野くんに僕壊のことなんて言ったことないのに、知っていてくれるなんて、すごくない?
「嬉しいなぁ……」
思わず声が零れた。
「うわ!恋する藍田さんかわい!」
茶化すように言った山本くんの肩に、灰野くんはがばっと腕を回して
「ほら帰んぞ」
と、教室を出て行った。