【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
「でもさすがに高いから金払うよ」


「いい。……昨日のお礼、というか」


「あー俺の失恋をいたわってくれてるわけ」


「え?ナギちゃん、灰野くんにも恋愛相談してたの?」


結構、意外かも。


「まぁ相談って言うかなぁー?なぁ、灰野」

「う……。うん」


なんだか気まずい空気が流れているような……。


「ナギちゃんも諦めないで今から告白でもしちゃえばいいのに」


灰野くんもそう思わない?と目を向けると


「な、何言ってんの藍田さん」


なぜか灰野くんは慌てていて。


「だって……ナギちゃん可哀想だよ。その子のことすっごい大好きだったのに」


「そうそう、俺めっちゃ好きだったよなぁ。今も大好きだけど」


でしょ?だったら。


「やっぱり早く告りなよ!今からならきっと間に合うよ!」


「そうしようかなぁ?」


あたしとナギちゃんの会話を遮るように灰野くんが間に入る。


「いやいやいやいや、藍田さん何いってんの!」


「え?」


「いや。例えばね?例えばの話だけど。俺と藍田さんが付き合ってるのに、俺のこと好き―って女子が来たら嫌じゃない?」


「うん、嫌。でもナギちゃんは……そんなの考えなくていいと思う。だってあんなに大好きだったんだもん……」


灰野くんは言いたい言葉を飲みこんだのか、溜息として吐き出してからぽつりとつぶやいた。


「やめようか、この話?」


パンと手を一つ叩いて、おしまい、という。


すっごい遠い目。どこ見てるの?


「俺やっぱ告ろうかなぁ」


「ナギ!」


「胡桃も言ってたよなぁ。俺が告ったら好きな人から鞍替えしちゃうんじゃないかって」


「く、鞍替え……?そんなこと言ったの、藍田さん?」



「うんうん、そんな強い想い受け取ったら気持ち揺らいじゃうと思うよ!」



「藍田さん、もう帰ろう。暗くなる」


すたっと、灰野くんが立ち上がった。


「え?もう帰るの?」



「あーはいはい、嘘だよ。告んねーよ」


ナギちゃんがなぜかとても楽しそうに笑っている。


「……もういい。俺たち帰る」


なんで突然こんなに灰野くん帰りたがるんだろう。


「えっと……じゃあ、また明日!彗たちとくるね」


「はいはーい、ありがとなー」


しゃっとカーテンを開けて、灰野くんと外にでると、向かいのベッドのカーテンがほんの少し開いて、中年男性はからかうように笑って言った。


「セイシュンだねぇー?」


「し。失礼します」


ぺこっと会釈して病室を出る灰野くんを急いで追いかけた。

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