【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
電車もバスもそれなりにすいていて、全然朝みたいにぎゅっと抱きしめられたりしない。


……でも電車に揺られている今。


手は、つないでもいいかな。


もう30分はそんなことを考えている。


もたもたしすぎた。

あと一駅で最寄りについちゃうよ。


「灰野くん……」

「ん?」


片手でつり革を握る灰野くんがあたしを見下ろした。


ばちん、と至近距離で目があって、ぱっとそらしてしまう、あたしのこれってもう癖みたいになってる。


「どうした?」


灰野くんの落ち着いた声が頭のすぐ傍で聞こえて、ドキドキする。


「あのね、その……手、」


繋いでもいいですか、って。なんでこんな簡単なことも言えないの!


「あぁ、うん」


灰野くんはなぜか頷いて、あたしの片手を掴んだ。


ぎゅうっと、優しくでも強く。


「……っ」


握り返して応える。


「もしもの話だけど」

「うん?」

「もし藍田さんが誰かに告白されたとしても……」


灰野くんは窓の外からあたしに視線を止めて、言った。



「俺は藍田さんのこと、離さないよ」


甘く響く声に、心臓が加速していく。


「うん……」


「だから、藍田さんも俺のこと離さないで」


「うん、離すわけないよ……」


目も向けられずに言うと、疑うような灰野くんの目があたしの顔を覗き込んだ。



「……ほんとう?」


あ、笑った。

そんなの、ズルい。灰野くん……。

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