【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
「藍田さん、降りるよ」


手を引かれて最寄り駅に降り立つ。


駅から10分強の距離をたいした会話も無しに歩き続ける。


カーブミラーだ。
ここで右に行けばあたしの家、左に行けば灰野くんの家。



「じゃあまた明日」


あたしが手を解こうとすると、「家まで送るよ」とぎゅっと繋ぎなおされた。


「大丈夫だよ、近いもん」

「……もう少し」

「え?」


「もう少し一緒にいたいって思うのは、俺だけなの?」


夕日の橙に染められた灰野くんの髪が暖かい風に揺らいで。


綺麗な目はあたしの目から一ミリも動かなくて。


赤らんだ頬はきっと夕焼けのせいなんかじゃない。


でもそれは……。



「藍田さん、顔赤い……」


灰野くんの指が触れたあたしの頬もおんなじ。


灰野くんの手のひらがあたしの頬を伝って髪を撫でる。


ふっと、縮まる距離に、目を大きく見開いた。


な、何?!


キス!?


「あ」


と灰野くんは固まって。


「あぶね……っ」


とあたしから一気に距離を取った。


「え……?」


ドクドクと心臓は勢いを増していくし。


「ごめん」と言いながら後ろ頭を掻く灰野くんは視線を地面に落として。


あたしたちを見つめるカーブミラーは、夕日をきらんと映している。

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