【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
「ほらほら胡桃ちゃんっ!そのヘタレカレシ、保健室につれていきなよ!」


どうなのそのネーミング。

リホに背中を押されて、やっと藍田さんが目の前に来てくれた。


長いまつげは濡れていて、余計長さを主張している。


「大丈夫?痛くない?……歩ける?」


そんなうるうるした目で手を差し伸べる藍田さんのそれは、天然なの?

可愛すぎんだろ。


「……うん、大丈夫」


今全面的にヤバいのは心拍数だけだから。

差し伸べられた手を掴むことさえできずに、俺は立ち上がった。


藍田さんが手をひっこめた時、彗の回し蹴りが背中に入って前につんのめった。


「おま……」

殺す気か。

「……このヘタレがぁ!」

「彗なにしてんの!灰野くん病人なんだよ!?」


病人なの?俺?

「その病人さんが倒れちゃわないように、しっかりじっくり手つないで保健室まで歩いてね、胡桃ちゃん」


なんでリホは藍田さん向けの言葉を俺にガンとばしながら言うんだよ。

わかってるよ、差し伸べられた手もつかめない俺がヘタレで悪かった。


「行こう?灰野くん。あの、つかまってもらっていいから……」

おそるおそる差し出された小さな手は、指先が震えている。

なんかめちゃくちゃ、ごめん。


俺はその手を今度こそぎゅっとつかんで、藍田さんの手を引いてプールサイドを歩いていく。

遠くで聞こえる絶叫とか冷やかしとか。

どうにかしてくれない?


っていう俺の視線だけは無視なんだな、彗と山本。

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