【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
黙り込んで一点を見つめる灰野くんは悟ったみたいな顔をあたしに向けた。
「……諦めよっか」
「えぇ!?これ落としたらあたし、補習なの、夏やすみ……」
「嘘。できるとこまでやろ。ちゃんと付き合うから」
なんでそんなに優しいんだろう、灰野くん……。
「ありがとう……」
「じゃあ、これは今日帰ってから暗記するとして。今は公式みながらでいいから、ここ解いてみてよ」
コツンコツンと灰野くんのペン先があたしの問題集を叩いていて。
そののんびりとした動きも、優しい声も。
「聞いてる?」
「あ……ごめん!」
「……藍田さんはなんでそうなんだよ」
灰野くんがふっと笑って、教科書に目を落とした。
わぁ、まつげ長い……。
見慣れたはずなのに、ちっとも見飽きない整った顔だち。
「……終わったらゆっくりしよ。今は頑張って解いて」
……ご褒美の、ゆっくり?
何するんだろ。
あ、そうだ。
キスは今度しようって、それ……とか。
「おーい、藍田さん」
「あ……」
あたしはシャーペンを必死に動かす。がりがり一時間勉強した。