【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
学習室に戻って、席についた。


向かい合って座っているあの女子に、一言謝れば済む話だ。


藍田さん、さっきはごめん。


たったそれだけで、この空気はマシになる。



だけどもう20分も最低な空気が、俺と藍田さんの間に漂っている。


息を吐き出すと、藍田さんがちらっと視線を上げたのに気付いた。


その視線に目を合わせて、あとはごめんって言えば……あ。やっぱだめか。


藍田さんは勢いよく目をそらした。


唇を噛んで、プリントの長文を目で追う。


……集中できない。


”ごめん。全部忘れて”


殴り書きした文字をプリントの片隅にかいて、びりっと破り取る。


山本も、ナギも。彗も、リホも、藍田さんもそれぞれ自分のプリントしかみていない。


向かいの机に手を伸ばし、彼女の視野に入るようにそっと紙を滑らせる。


藍田さんはちらっとこっちを見て、紙に目を落とすとフルフルと横に首を振った。


口をパクパクさせて、でもなんて言ってんのかわかんない。


首を傾げた俺を見て、藍田さんは俺からナギへと視線をずらす。


”ナギちゃん助けて?”


……もういいや。

藍田さんのことは、これ以上見ない。




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