【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
リホちゃんのカードをひっこぬく山本君が「罰ゲームどうする?」といいながら二枚捨てる。
「べたに、1位がビリに命令でいいんじゃね?」とナギちゃんが山本君のを引いて答える。
「べただねぇ」とあたしはナギちゃんのを引いて……って、ジョーカーだ……!
すぐに手持ちをシャッフルして、灰野くんに向ける。
それぞれの会話が飛び交う中、あたしと灰野くんは言葉ひとつ交わさない。
ドキドキドキドキ。
代わりに心臓がうるさい。
漆黒の目があたしのトランプを見ている。手が伸びる。
もうすぐこの瞬間が終わっちゃう。
……もうすこしだけ。
あたしは、ジョーカーを少し持ち上げた。
ちょっとだけ、いたずら心。
そのちょっとだけに、灰野くんの手は少し止まった。
伸びた一枚は本当にジョーカー?って、頭を巡っていそう。
ほんのちょっとの時間稼ぎに成功。
なぁんて。
ばかみたいだな、あたし。
ジョーカーを避けた一番端を灰野くんは引きぬいた。
無難だなぁ、灰野くんらしい。
「藍田さんもそういうのするんだ」
クスっと笑った灰野くんに、ドキリと心臓が跳ねる。
「す、するよ?」
「へぇ。なんか意外」
笑ったよね?
あたしと会話したうえ、灰野くんは絶対に笑った。
「ふたり幼馴染なのにもしかしてトランプもやったことないの?」
彗の質問に、あたしと灰野くんは記憶を巡らせる。
えーっと、たしかに。言われてみれば。
「「そういえばないね」」
「双子かよ」
山本君が笑い飛ばす中、あたしたちは気まずくなって言葉を失う。