【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
「灰野くん」のあとに続くハートマーク。
さらによく見れば「灰野胡桃」と書いて、消してある。


光が浮き彫りにするその文字に、どきっと心臓が鳴って、溜息がつきたくなって……一気にむかつく。



……今更どうしたいっていうの、藍田さん。



顔をしかめてプリントを睨んでいると、すぐそこのトイレから出てきたクラスメイトの山本に肘でつつかれた。


「何イライラしてんの?」

赤みがかった茶髪男が、にやにやと俺を覗き込む。

「べつにー」

「藍田さんのプリントがどうかしたの?」



俺の手元をひょこんと覗き込んだ山本からプリントを遠ざけた。


「なんでもねーよ。……ってなんで笑ってんの?」


「だって伊吹って素直じゃなさすぎて……。うける」


くつくつと肩を震わせるこいつに、俺はさらに眉間の皺を深める。


素直じゃないって何が。


「素直とか、そういう話じゃないの。俺たちは」


ぷはっ、と吹き出す山本っていうは、本当に楽しそうだな?

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