月夜に花が咲く頃に
4.序章

期末試験の結果も返され、明日からいよいよ夏休みに入る。


一学期最後のHRが終わり、生徒達は浮き足だった様子で教室から去って行った。


「雫、夏休みいっぱい遊ぼうね!」


「うん。翼は部活の合宿もあるんだっけ?」


「そう!気合い入れなきゃねー!」


翼も他の生徒と同じように、夏を満喫しようと張り切っている。


私も、気合いを入れなければ。


きっとこの夏、暁は大きな抗争を起こすことになる。


せめて、あいつらの足手まといにならないようにしなければ。


「雫、行くぞ」


「ああ、うん。じゃあね、翼。部活頑張ってね」


紅雅に声をかけられ、私は鞄を抱えて翼に手を振る。


「うん、頑張るよ」


翼も私に手を振り返して、教室を出ていった。





翼は、何も聞いてこない。


私が翼と絶対に夜に会わないことも、たまに私が怪我をして登校することも。


暁の奴らが最近私に話しかけてくることも、今みたいに、暁の総長が私に帰るぞ、と声をかけることも。


ただ、心配そうに、悲しそうに、笑う。


何か言いたそうに口を開くけど、必ずその唇はすぐに閉じて弧を描く。


高校に入って、一番の親友。


大事なのに、大事なせいで、何も言えない。


心配をかけたくない。巻き込みたくない。


何より、嫌われたくない。


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