月夜に花が咲く頃に
「どこに行くつもりだ」



「えー、散歩しようとしてただけだよ。紅雅こそ、どこ行くの?」



「お前が部屋から出て行ったから来たんだろうが」



紅雅は呆れ顔で私の頭に軽く手刀を落とす。



「・・・・・・追いかけてきてくれたんだ?」



「お前、うなされてたしな」



「え、ほんと?なんか怖い夢でも見てたかなー」



覚えてないや、と笑う。



悟られたくなんて、ないから。



私の昔のトラウマなんて、紅雅には関係のない話だ。



「・・・・・・戻るぞ」



「えっ、ちょっと、」



私の意見なんてお構いなしに、紅雅は私の腕を掴んで旅館に帰ろうとする。



私は反射的に、その手を振り払ってしまった。



「あ・・・・・・」



紅雅が振り返る。



眉間にしわを寄せて、私を見てる。



なんとなく、気まずい感じがして、とりあえず、笑った。



「あー、紅雅、先に帰ってて。私、もうちょっと散歩したいからさ」



紅雅は何も言わない。



無言は肯定、ってことで、いいんだよね?



私はじゃあね、と紅雅に手を振って、また歩き出そうと足を前に出した。



「・・・・・・っざけんな」



――――足は、それ以上前には進まなかった。



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