月夜に花が咲く頃に
・・・・・・その夜はそのまま紅雅の胸の中で泣き疲れて。



気づいたら、旅館の部屋に戻ってた。



翼と光はまだグースカ寝てたけど、楓は起きてたみたいで、私たちを見るなり安心そうな顔をした。



「二人ともいなかったから、どこ行ったのかと思ったよ。まあ、雫ちゃん一人がいないよりはよかったけど」



一緒にいたんでしょ?と楓に言われて、初めて気がつく。



楓も、私を一人にさせる気なんて全くないこと。



・・・・・・きっと、そこで熟睡してる二人だって。



「・・・・・・ほんと、ばか」



今まで、こいつらが気づかなかったわけがない。



私が意識的に一定の距離を保っていたこと。



自分のことを決して話そうとはしなかったこと。



いつでも離れられるように、壁をつくっていたこと。



彼らはいつもバカみたいに甘ったるく優しいくせに。



『一人でも大丈夫』



それだけは、許してくれない。



「ん~・・・・・・。あれ、雫、おはよぉ」



「んあ?もう朝か?」



「ばか。起きろアホ二人組!」



寝ぼけた調子で起きた二人にばっと飛びつく。



「うお!何だよ急に、」


「し、雫!?珍しいね、こんな直接的な愛情表現っ」



二人が耳元で騒ぐ。



ああ、うるさい。



ほんと、うるさいなあ。



「ふふっ」



笑みが溢れた顔のまま、後ろにいる紅雅を見る。



私は、まだ怖いから。



あんたたちを信じて、一緒にいたいなんて心からまだ思えないけど。





でも、これだけは言える。










ここは、思った以上に、ずっと、暖かい場所だ。









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