月夜に花が咲く頃に
とても最強の暴走族の一員だなんて思えないくらい。


まあでも、怒ると怖いんだろうな。


さっきも十分怖かったし。


「少し、話をしようか」


奥山は私の目の前のソファに座って、その笑顔を私に向けた。


「京極さんは、俺らのことどのくらい知ってる?」


「え、何突然・・・・・・。暁のこと?ここらへんじゃ負け知らずの暴走族、ってイメージだけど」


「うん。俺らは暴走族だ。そんな人たちの溜まり場に来てるってのに、京極さんはやけに冷静だなあって思ってさ」


空気が、ぴりつく。


奥山の目は何かを探るように私を見てきて。


息が詰まりそうなほどに苦しくなる。


「何が言いたいの」


何かを警戒している?


でも、だったらわざわざ私を引き留める理由が分からない。


「俺の勘違いだったらいいんだけどさ。クラスメイトの普通の女の子をこんな危ない世界に巻き込みたくはないし」


普通の、ね、と奥山は小さく繰り返す。


冷たい汗が背中をつたう。


後ろのドアが、静かに開いた。


振り向かなくても分かる。


この圧倒的重圧と、存在感。


「お前、ヨルを知ってるか」


低く響くその声に、コーヒーを持つ手が震えた。


「鬼神、紅雅・・・・・・」


心臓の音がうるさい。







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