月夜に花が咲く頃に
それから、ヒロ兄はよく私の家に遊びに来るようになった。


学校の帰りも、途中で会うと一緒に家まで帰った。


たまには泊まったりなんかもして。


そして八月、弟が生まれて。


私は母が入院する病院に、父とヒロ兄と三人で来ていた。


「小さい・・・・・・」


生まれて間もない赤ちゃんの手を恐る恐る触る。


柔らかくて、小さくて、今にも壊れてしまいそう。


「雫、弟の名前、雫が付けないか?」


「え?」


「お母さんと二人で話してたんだ。お姉ちゃんに弟の名前を決めてほしいって」


「お姉ちゃんがつけてくれたなら、弟もきっと喜ぶと思ったの」


弟の、名前・・・・・・。


自分の指の先にいる小さな男の子。


これからどんな人生を送るんだろう。


誰と出会って、どんな日々を生きていくんだろう。


みんなに好かれると良いな。


明るくて、お日様みたいに。


「ひなた・・・・・・」


「ん?」


「陽向がいい。明るくて、みんなが大好きだから」


どうかな?と母の目を見ると、その目は優しく笑っていて。


父の方を見たら、父も笑顔で頷いてくれた。


「いい名前じゃん、陽向」


ヒロ兄も、赤ちゃんのほっぺを触りながら、にひひと笑う。



すごく穏やかで、平和な日々が、続いていた。







・・・・・・・・・・・・ずっと、続くはずだったのに。










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