月夜に花が咲く頃に
ずっと探し続けていた、大事な人。



ずっと会いたかった、また笑って、名前を呼んでほしかった、大好きな人。



やっと、見つけたのに。



やっと会えたのに。



笑いかけてはくれない。



あの頃のように、優しい声で名前を呼んではくれない。



「ヒロ兄は、もう、目覚めることはないんですか・・・・・・?」



「・・・・・・残念じゃが、目覚めることは難しいじゃろう。命がつきるのも、時間の問題じゃ」



医者の言うことだ。


きっと間違いなく、ヒロ兄はこのまま死んでしまうんだろう。


世の中そう甘くないことは知っているつもりだ。



また、私の大事な人は、消えてしまうのか。



「守ってくれるって、言ったじゃん、ばか・・・・・・」



こんなことを言うのは、筋違いだと分かっている。



今までずっと守られてきた。


助けられてきた。



むしろ、今度は私がヒロ兄を助けなきゃいけなかったんだ。



なのに、私は、何も出来なかった。



今まで受けてきた恩を一つも返せないまま、またいなくなってしまう。



どうして、私はいつもこうなんだろう。



無力だ。



なんでこんなに、どうしようもなく、弱いんだ。



「ごめんなさい、少し、一人にして・・・・・・」



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