月夜に花が咲く頃に
私は病室を出て、一人屋上に向かった。



憎らしいほどに青い空が広がっていて、自分がものすごくちっぽけに思えた。



鼻の奥がつんと痛くなって、涙が溢れそうになる。



慌てて目元を拭って、上を向いて無理やり涙を引っ込ませた。



泣いてちゃダメだ。



ここで泣いたら、弱いままだ。




「・・・・・・雫」



不意に後ろから紅雅の声がして。



もう、一人にしてって言ったのに。



いつも頼みを聞いてくれないんだから。



「・・・・・・ありがとね、紅雅。ヒロ兄に、会わせてくれて」



紅雅に背を向けたまま、声を絞り出す。



今紅雅の顔を見たら、自分がどうなっちゃうか分からないから。



行き場のないドロドロ汚い感情を、ぶつけてしまいそうだから。



だからお願い、これ以上、何も言わないで。



頼むから、一人にしてよ。




「雫、」


「紅雅、お願い。もう少し、一人にしてくれる?落ち着いたら、戻るから」



紅雅の言葉を遮って、大声を張り上げる。



見られたくない。



気づかれたくない。



これ以上、みっともないとこを紅雅に知られたくないのに。



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