月夜に花が咲く頃に
むしろ、怖かった。



紅雅が私を探していた理由が分かって、その目的も果たされて。



私がヨルになった目的も果たされた今。



私はもうヨルである必要がない。



暁にいる理由もない。



ヒロ兄だって・・・・・・。




一瞬にして、全てなくなるんだって、思った瞬間。



すごく、怖くなった。



私が存在している理由が、見つからなくて。



急に闇に放り込まれたみたいに、何も見えなくなりそうで。




「さっき、じじいから連絡があった。浩さんの様態が急変した」



紅雅の言葉に、顔を上げる。



私は、紅雅が差し出した手を掴んで走り出した。









「ヒロ兄!」



息を切らして病院に行くと、ヒロ兄は相も変わらずそこで眠っていて。



横の機械の音だけが響いていた。



「おそらく、後数分ももたんじゃろう」



ヒロ兄の手を握る。



本当に、いなくなってしまう。



不意にテレビか何かで人間が死ぬとき最後まで残るのは聴覚だと言っていたことを思い出した。




「ヒロ兄・・・・・・。私、紅雅に、暁に会ったよ」



実際本当に聞こえてるかなんて分からない。



聞こえてなんて、ないかもしれない。



< 187 / 225 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop