月夜に花が咲く頃に
しばらく放心状態のまま、時間が過ぎた。



「大丈夫か」



紅雅が差し出してくれた缶コーヒーを受け取る。



「大丈夫なわけ、ないでしょ・・・・・・」



また涙が溢れそうになって、勢いよくコーヒーを飲み干した。



さっきヒロ兄に言ったことだって、ほとんどただの強がりだ。



ヒロ兄がいなくても大丈夫なわけない。



ヒロ兄がいなくなっても平気なくらい、強くなったわけない。



この悲しさも、苦しさも、きっと消えることなんてない。





・・・・・・だけど。



「ねえ紅雅。私、ヒロ兄が紅雅を守ったって話を聞いたとき、確かに驚いたし、ショックだったけどね。納得しちゃったんだ」



「あ?」



「ヒロ兄は、守りたいものを守ったんだなって」



楓の言葉を思い出す。



きっと、理屈じゃない。



守りたいもの。失いたくないもの。



それはもちろん、ヒロ兄にもあって。



その時は、それが紅雅だったんだろう。



「うまく、言えないけど。私、紅雅に会えてよかった」



「・・・・・・」



「暁に、会えてよかった」



紅雅は、驚いたような、訳が分からないような、複雑な顔をしていた。



私も正直、よく分からない。



だから、説明しろと言われても無理だけど。





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