月夜に花が咲く頃に
「っ~、見るなバカ、」



つー、と私の首を撫でる紅雅の指。


その指は私の頬に触れて、垂れている髪を耳にかける。



「っ、」


「もっと見せろ」



ほんとに、ずるい。


その仕草も、表情も、声も。


無駄に艶めかしくて、妖艶で、色っぽくて。


逃げたいのに、逃げられない。


悔しい。


この男の前だと、冷静でいられない。


心臓がバカみたいにうるさくて、痛い。



「雫」



耳元で呼ばれる名前も。



無理だ。もう。




限界だ・・・・・・!




「は、離せバカやろおおおおお!!!」




ドカッと鈍い音が響いて紅雅の身体が後ろにのけぞる。



勢いよく殴ったせいで、私の手も相当痛い。



でも、そんなの気にしてられなくて、私は紅雅から距離を取って叫んでいた。



「なんなの!いつもそうやってからかって・・・・・・!そんなに私をいじくるのが楽しい!?紅雅はそういうこと慣れてるかもしれないけどねえ!私はそういう経験ないの!そういうことされると困るの!もう・・・・・・、いい加減にして!」




それだけ言って、勢いよく部屋を飛び出した。



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