月夜に花が咲く頃に
そもそもあんなことがあっていつも通りでいられる方がおかしいと思うのだが。


まともに顔も見れないし、話しかけられても適当に返事をしてすぐに逃げてしまう。


奥山も明原も、明らかに不審がってたもんなあ。


いい加減自分の態度をなんとかしたいのだが、どうにもできないのだ。


「おい。早く受け取れ」


なのにこいつは。


なんでこんな普通でいられるのだろうか。


ふてぶてしい奴め。


なんだか自分だけ意識しているみたいでアホらしくなって、差し出されたペットボトルを受け取った。


「あ、ありがとう」


ぼそっとお礼を言うと、鬼神はストン、と私の隣に座った。


また何かされるのかと身構えたが、鬼神は何もせずただ看板をじっと見ていて。


なんだか拍子抜けしてしまう。


いや、でもこいつの前で気は抜いちゃいけない。


鬼神をチラチラと見ながら、すぐに離脱できるように構えていると、鬼神が急に笑い出した。


「そんなに警戒しなくてもこんなところで襲わねえよ」


思わず赤面してしまう。


一気に恥ずかしくなって、下をうつむいて丸くなる。


ていうか前のアレは襲ってた自覚あったんだね。


「あんたがあんなことするからでしょうが」


むっとなって小さい声で言い返すと、鬼神は私の顔をのぞき込んできた。




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