月夜に花が咲く頃に
振り上げられた拳。


その目には、何も映ってなくて。


私は反射的に、教室のドアをバンッ、と思いっきり音を立てて開けた。


「明原!」


音に反応したのか、明原の拳は女の子の顔寸前で止まって。


明原はゆっくりと私の方を向いた。


しばらく私を見てから、女の子を掴んでいた手を離して、いつもの笑みを作る。


女の子は床を這いずりながら教室を出て行った。


「・・・・・・あれ、雫ちゃんじゃん。どうしたの?」


「どうしたのって・・・・・・。あんたこそ、何やってんの」


「ははっ、全部、聞いてた?」


乾いた笑い声が、教室に響く。


必死に笑みをたもとうとしている明原の口元が、微かに震えていた。


「俺さあ、中学の時、マジで付き合ってた奴いたんだけどさ」


震え声で話し始める明原は、これ以上ないほど弱々しくて。


「そいつ、病気で死んじまってさあ」


やめて、お願い。


「もうかなり前の話なのに、俺、未だに引きづっちまってて」


そんな悲しそうな声で、苦しそうな声で。


「忘れられねえんだよ。バカ、だよなあ」


消えてしまいそうな声で。


「ほんと、俺、バカみてえ」


笑わないで。


そんな、泣きそうな顔で。


必死に何かに耐えているような明原は、見ていられなくて。


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