月夜に花が咲く頃に
「なあ、雫ちゃん」


「・・・・・・明原、」


「なんで、あいつじゃなきゃいけなかったんだろうな」


そう言って、一瞬だけ辛そうに顔を酷く歪めた明原に。


私は、何も言えなくて。


明原は小さくごめん、とだけ言って、どこかへ行ってしまった。


残された教室に1人。


先ほど蹴られたであろう倒れた机をぼんやりと見つめる。


いつも脳天気で、バカで、チャラい男。


そんな男の、苦しそうな声が耳にこびりついている。


泣いてしまいそうな酷い笑顔が、まぶたに焼き付いている。


「何、やってんだろ、私」


人には、触れてはいけない部分がある。


誰よりも、分かっていたはずなのに。


頭の中で、これ以上深入りするなと、警告が鳴っている。


うるさいな。


分かってる。


頭の中では、分かってるんだ。


だけど。


蹴られた机を直してから、教室を出てかけだした。


あいつのあんな顔を見て。


放っとけるわけ、なかったんだ。


見過ごすことなんて、その時の私には、出来るはずなかった。



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