月夜に花が咲く頃に
夜の海は、なんだか飲み込まれそうで。


月の明かりだけが、弱々しく海を照らし出す。


「明原あああー!!!」


必死に名前を呼ぶけど、波の音にかき消される。


目をこらして探していると、海の中で月の光が反射して何かが光った。


波の向きに逆らうように、沖の方へと進んでいく。


私は一目散にかけだした。


「明原っ」


明原は、私に気づいていないのか、振り返ることなくどんどん海に飲み込まれている。


ばしゃばしゃと水しぶきをあげながら、水のせいで思うように動いてくれない足を無理矢理進ませる。


なんとか明原の腕を掴み、強引に振り向かせた。


「明原!何やってんだあんた!」


腰あたりまで沈んだ明原は、私を瞳に映すと、手を振り払おうと腕を振り回す。


「うわっ」


反動で倒れそうになるが、なんとか持ちこたえる。


夜の海は、すごく冷たくて。


もう、海に浸かっている胸元から下の感覚なんてほとんどなかった。


やばい、これじゃあ、2人とも溺れちゃう。


明原は止まってはくれなくて。


苦しそうに、涙を流して。


私をにらみつける。


「ふざけんな。もう、離してくれ。俺はもう、あいつのいない世界で生きていたくない」


何も、その目には映していない。


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