月夜に花が咲く頃に
ふざけんな・・・・・・?


それは、こっちの台詞だ。


私は歯をギリッと食いしばって、明原の腕を掴んだままもう片方の手で明原を殴り飛ばした。


呆然として力が抜けた明原を、背負ってなんとか砂浜まで引き上げる。


明原は、しばらく砂浜に座ったまま動かなかったけど、我に返ったのか隣に座る私をまたにらみつけた。


「なんで助けたんだよ。もう少しで、あいつのところに行けたのに!」


悲痛な叫び声が夜の海に響いた。


「俺は、もう嫌なんだよ・・・・・・。いつか忘れられると思って、他の女の子の相手しても、適当に身体の関係持っても・・・・・・!あいつのことが忘れられねえ。あいつの声も、顔も、仕草も、全部、全部!あいつがいなくなってから、ずっと空っぽのまんまだ・・・・・・!あいつのいない世界で生きるのは、もう疲れたんだよ・・・・・・」


明原の涙が、砂浜に染みを作っては、消える。


苦しそうに、声を絞り出して。


私の目の前で泣きじゃくるこの男は。


紛れもなく、一人の女を愛し続けた、ただの一人の男で。


ただ、そばにいたかった。


好きな女と、一緒に生きていきたかった。


それだけを望んだ、バカなほどに一途な男。


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