月夜に花が咲く頃に
「・・・・・・あんたが今まで、どんな思いで生きてきたかなんて、私には分からないよ」


明原の目をまっすぐに見てそう言うと、明原は小さく舌打ちをして、私から顔を逸らした。


でも、だけどね。


「それでも、これだけは言える。あんたの今の行動は、間違ってる」


今生きてる人間は、死んだ人間を追いかけちゃいけないから。


「死んだ人間を、忘れろなんて言わない。だけど、あんたが死んだらいけないだろう!?」


明原の胸ぐらを掴んで、引き寄せる。


「彼女だって、生きたかったはずだ!お前と一緒に、未来を見たかったはずだ!そんな彼女の前で、お前は死にたいなんて言えるのか!」


死んだ人間とは、二度と会うことなんて出来ない。


この世に取り残された人間が、きっと一番苦しい。


だけど、それでも。


「本当にその子のことを思うなら、お前が前向いて生きるしかねえんだ!男なら、惚れた女の分まで生き抜いてみろよ!」


生きている人間は、前を向くしかないから。


歩き続けることしか、できないから。


結局、私たちは、乗り越えるしかないのだ。




明原はしばらく放心したように黙っていたが、私が胸元を離すと、その場に崩れ落ちて静かに泣いた。


しばらくしてから鬼神と奥山が暁の人たちを連れて駆けつけて、びしょ濡れの私と明原を見つけ、車まで運んだ。


帰り道、誰も何も話さなかった。


ただ、おぼろげに光る月だけが、輝いていた。






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