月夜に花が咲く頃に
私たちを乗せた車は暁の倉庫の前で静かに停車した。


降りろ、と鬼神に促され、車を降りる。


うつろな目をした明原も、私に続いて車を降りた。


途端に、鬼神が明原を力いっぱい殴る。


明原は抵抗することなくその場に倒れ込んだ。


いつもなら止めるであろう奥山も、黙ってその様子を見ている。


明原は、殴られた頬に手を当てて、鬼神を見上げた。


「・・・・・・なんで殴られたかくらい、分かるだろ」


鬼神の拳は震えていて。


それに気づいた明原は自嘲気味に笑った。


「・・・・・・悪かったよ。あんたの大事な人を巻き込んで」


泣きはらしたその瞳で、鬼神の隣にいる私を見てくる。


鬼神はそんな明原に対して、大きく舌打ちをしてから、明原の前にしゃがみ込んだ。


「ちげえよ。俺は、勝手に死のうとしたお前に怒ってんだ」


鬼神が呟いたその声が、夜風に溶けていく。


明原は、訳が分からないというように、眉を寄せた。


「仲間だろうが!」


ビリビリと、地鳴りのように響いた鬼神の怒号。


鬼神がこんな大声を出して怒鳴るのは、少なくとも私にとっては初めてのことで。


ああ、そうか。


仲間だから。


気づけなかったことが悔しくて。


こうなる前に、救えなかったことが情けなくて。


鬼神は、自分にも怒っているのかもしれない。





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