月夜に花が咲く頃に
「私の当番時間もうすぐ終わるし。そもそもせっかく来たお客さんを追い返したりはしないよ」


ちょっとふざけてどうぞご主人様、といたずらに笑って言うと、明原はなぜかばっと顔を背けた。


「・・・・・・やば、何この破壊力」


「何言ってるの?早く入って」






明原から注文を取り終えて、調理場の方へ向かう。


そこにはいつも通りの無表情で生クリームをかき混ぜる鬼神と、綺麗に盛り付けをしている奥山。


そして、その姿を陰からうっとりと眺める女の子たち。


「鬼神、オレンジケーキ1とコーヒー1、よろしく」


「ああ」


それにしても、何をやっても様になる。


なんとなくその手先をじっと見ていると、鬼神が手を止めた。


「なんだ、食いてえのか」


「え、いや、そうじゃなくて」


見てただけ、と言おうとしたその口に、鬼神が指ですくった生クリームをむぐっと入れられた。


「んむっ」


「・・・・・・うまいか?」


いや、甘いわ。うまいけど。


口の中に広がる甘ったるさを感じながら、こくりと頷くと、鬼神はフッと笑った。


「口の周りについてんぞ」


いやそれはあんたのせいだろ。


口元を拭って、指についたクリームをなめる。


甘っ。


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