月夜に花が咲く頃に
教室に静かに響く明原の声は。


弱々しくなんかなくて。


消えそうだなんて、とんだ勘違い。


「俺が、初めて雫ちゃんと話した日、覚えてる?」


「え?ああ、公園で会った日のこと?」


「うん。あの日、あいつの命日だったんだ」


命日・・・・・・。


だから一人であんなところにいたんだ。


「墓参り、行こうとしたんだけど、結局あの日は行けなかったんだ。あいつと向き合える自信がなくて、途中で引き返した」


あのときの明原を思い出す。


自分に触れられたくないと、ぴりついた雰囲気。


顔に貼り付けたような、悲しそうな笑み。


「あいつの命日になる度に、何度も行こうとして、何度も諦めた。あいつの墓の前になんか行ったら、どうにかなっちまいそうで。あいつがこの世にいないってのを、改めて自覚しそうで、怖かった。・・・・・・でもさ、」


やっとこっちを見た明原の顔は、少しだけ泣いてるみたいで、でも、笑顔で。


「俺が前を向けるようになったら、ちゃんと行こうと思えた」


花火が上がる。


綺麗な、でもすぐ消えてしまう、明るい光り。


でも、目の前の、この男の笑顔は。


この光りは、きっともう、消えない。


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