月夜に花が咲く頃に
「着きました」


「おう!ガク、ありがとな」


車が静かに停まり、ガクと呼ばれる男がドアを開ける。


まるで執事だ。


「あ、ありがとうございます」


「いえいえ」


お礼を言うと、その厳つい顔からは想像できないほど爽やかな笑顔を返された。


これがギャップ萌えというやつか。


なるほど。ちょっといいじゃん。ガクさん。


「雫ちゃーん。こっちこっち」


手招きする明原の後ろには、でっかい薄汚れた倉庫みたいな建物がある。


「何、ここ」


「いいからいいから、ほら、早く行くよ」


なんとなく入りたくない、という私の気持ちを無視して、明原は私の腕をむんずと掴み、ずんずんその建物の中へと入っていった。


建物の中に入ると、そこには数十人のお兄さん達がいて。


明原が入るやいなや、一斉に頭を下げる。


そして全員が後ろにいる私を見てぽかんと口を開けた。


全員が同じ動きをするもんだから、なんだかシュールで。


「ぶふっ」


思わず吹き出してしまった。


「雫ちゃん?どうしたの?」


「だって、みんな同じ顔っ、あははっ」


「ええ・・・・・・?雫ちゃんのツボって変わってるよね」


明原はそんな笑いっぱなしの私をずるずると2階まで引っ張っていった。








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