月夜に花が咲く頃に
でも、紫樂が来たあの日から、安全のため、ということでしばらく車で移動することが原則に。


どうしても車が出せないときは3人の誰かのバイクで移動、ということになった。


「ガク、今日もお願いします」


「お安いご用ですよ、姐さん」


いつからか、ガクからも姐さんと呼ばれるようになった。


雫でいい、と言ったんだけど、恐れ多いです、と丁寧に断られた。


そんな恐れをなすような名前じゃないと思うんだけどなあ。


車は暁の倉庫に着き、私たちは中へ入る。


倉庫から入ってすぐに、1階でたむろしている男達から「姐さん、お疲れっす」と言われるのももう慣れた。


最初はそれに加えて深々と頭を下げられていたんだけど、頼むからやめてくれと懇願したらなんとかやめてくれた。


こいつらが敬ってるのは私じゃないし。


何より、恥ずかしくてたまったもんじゃない。


「姐さん、今日の試験どうでした?」


「うん、まあまあ解けたかな」


「さすが姐さん。俺、数学の問題全然分かんなかったっす」


「あー、あれだろ?問5の点Pが動くやつ!大人しく止まってればいいのによお」


「ちっげえよ点Qだよ!」


つっこむところはそこでいいのか。


ていうか点Pってなんかデジャヴだな。


仲の良さが微笑ましくて、頬が緩む。





・・・・・・だけど。


なんとなく感じる、ピリピリした空気。


この間のことがあってから、みんなの警戒心が強くなってるのを肌で感じる。




不安、恐怖、焦り。




みんなそれぞれ顔や態度に出すまいとしているけれど、どことなく不自然な様子なのは一目瞭然だ。


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