花冠の指
今日、君から「会いたい」と電話がきたとき、僕は嬉しかった。嬉しかったのに、怖かった。何を言われてしまうのか、君は本当は僕のことを憎んでいるんじゃないか。それが、酷く恐ろしかった。
僕は君のことが好きなのに、僕は君の隣にいたいのに、僕は君のことが嫌いになりたくて、君の隣にいたくない。
大人になんて、なるんじゃなかった。
「ごめんなさいって、言いたかったんだ」
にっこり笑った君の頬を、色を濃くした太陽が照らしている。夕焼けになりきれない太陽が、じりじりと空を焦がして、僕らを見ている。
「はなかんむり、編めなくなっちゃった」
君の指先が、膝の上に散らばった花びらを寄せ集めて、はらはらと舞わせた。
「昔は編めたのになぁ」
「……昔から下手くそだったけどな」
「なにそれひどい」
「なぁ、やっぱり、」
言いかけた僕の唇を、君が塞いだ。
シロツメクサの匂いがする。あの日と同じ匂いがする。泣き出してしまいそうで、どうにもならない指先を、君の背中にそっと這わせたくて、だけど、やっぱり僕はその指を柔らかい草の上に投げ捨てた。
――あぁ、大人になんてなるんじゃなかった。