花冠の指



本当はずっと、後悔していたんだ。手をつないで帰りたかった。日が暮れるまで、君と一緒にいたかった。大人になってもっと自由になったなら、こうしてキスをして、朝も夜もずっと一緒に、君と過ごしていたかった。当たり前のように、そう出来ると思っていた。

大人になんて、なるんじゃなかった。

知りたくなかった。あの日のまま何も変わらず、君と一緒にいたかった。稚拙で、格好つかなくて、それでも精一杯に真っ直ぐなあの日の僕のままで、君を好きでいたかった。


「もう一回、プロポーズしてよ」


許されたいくせに、ごめんなさいと言えない。愛されたいくせに、与える術を知らない。こんな大人に、なりたいわけじゃなかったのに。


「……僕と、結婚してくれる?」


君はどこまでも優しくて、どこまでも真っ直ぐだ。僕はなんにも持ってないのに。君に優しくすることも、大事にすることも出来ずにいるのに。ただ、好きでいることしか出来ずにいるのに、それすら躊躇って、見ないふりを続けているのに、それなのに。

君は、僕を楽にする術を知っている。


春風が鬱陶しくて、涙が出る。柔らかい風が、優しい香りが胸糞悪くて、涙が出る。


「結婚できない、ごめんなさい」


そして君は、僕に優しいさようならをくれるのだろう。あの日と同じに、にっこり微笑って。



【花冠の指】


(お前のことが好きだった、誰よりも)

(僕もだよ)
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