日替わり彼氏
「忘れる必要、ないよ?」
2人で海を眺めていた。
もう海風は、少し温くなり始めている。
「無理に忘れる必要ないから」
寺本さんの顔を、思わず食い入るように見つめる。
誰もが『忘れろ』というのに、正反対のことを言われたのが珍しくて。
「でもその代わり、僕と楽しい思い出を作って上書きしていこう」
そう言って、手を握られた。
あったかい、寺本さんの手。
まるで、クリームパンみたいなふっくらした手をしている。
体は痩せているのに、この手だけは大きくて。
だからこんなにも、あったかいんだ__。
「もう、何も心配しなくていい。君の無罪は保証されたし、日替わり彼女も捜査してもらってる」
「えっ?」
「借金をチャラにするって、あれは高利貸しのことだ。それを返そうと犯罪を誘発しているところがあった。君の1000万は返金したし、数百万は君を庇ったらしい、坂口くんの家に寄付しておいたよ」
「ほんとに?」
「ああ。僕の大事なひとを守ってくれたから」
「どうして、そこまでしてくれるんですか?」
「どうしてって?」
優しく微笑んだ寺本さん。
「そんなの簡単だよ。君を愛してるからさ」