日替わり彼氏


「忘れる必要、ないよ?」


2人で海を眺めていた。


もう海風は、少し温くなり始めている。


「無理に忘れる必要ないから」


寺本さんの顔を、思わず食い入るように見つめる。


誰もが『忘れろ』というのに、正反対のことを言われたのが珍しくて。


「でもその代わり、僕と楽しい思い出を作って上書きしていこう」


そう言って、手を握られた。


あったかい、寺本さんの手。


まるで、クリームパンみたいなふっくらした手をしている。


体は痩せているのに、この手だけは大きくて。


だからこんなにも、あったかいんだ__。


「もう、何も心配しなくていい。君の無罪は保証されたし、日替わり彼女も捜査してもらってる」


「えっ?」


「借金をチャラにするって、あれは高利貸しのことだ。それを返そうと犯罪を誘発しているところがあった。君の1000万は返金したし、数百万は君を庇ったらしい、坂口くんの家に寄付しておいたよ」


「ほんとに?」


「ああ。僕の大事なひとを守ってくれたから」


「どうして、そこまでしてくれるんですか?」


「どうしてって?」


優しく微笑んだ寺本さん。


「そんなの簡単だよ。君を愛してるからさ」


< 133 / 142 >

この作品をシェア

pagetop