日替わり彼氏


もうだいぶ、お腹が目立ち始めている。


僕たちの赤ちゃんが誕生する日も、もう近い。


「じゃ、行ってきます」


仕事に向かう僕は、玄関先で振り返る。


「行ってらっしゃい」


智花が僕の頬にチュッとキスをした。


そして僕に向かって手を差し出すから、その手を両手で包み込む。


こうすると、智花は安心するらしい。


僕のぷっくりした手をからかったりするけど、この朝の儀式は欠かせない。


「愛してるよ」


僕がそう口にすると、智花はにっこりと微笑む。


「私も愛してる」


そう言って、見送ってくれるんだ。


いつもこの瞬間、僕はイキそうになる。


智花とセックスをしているときより、精神的な満足度が高い。


胸がすーっとするんだ。


ミントを食べたときみたいに、心の中が爽快になる。


そしてマイホームから離れると、忍び笑いが止まらない。


「くくっ」という小さな笑いが、次第に大きくなり__やがて声を上げて笑い上げる。


車の中だからいいだろう。


どれだけ笑っても、不審な目で見られない。


僕は運転できないほど笑う。体を折り曲げ、目からは涙を流し、笑うんだ。


なにを笑うかって?


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