日替わり彼氏


スマホが鳴った。


知らない番号からだ。


「もしもし?」


『こちら日替わり彼氏の運営委員のものです』


「運営、委員?」


『はい。柏木智花さんでお間違いないですね?』


「そうですけど」


首を傾げながら答える。


一体、なんの用だというのか?


『今すぐ、増田順一とのデートにお戻り下さい』


「えっ?」


『水曜日の彼氏候補の、増田順一です』


すぐに、あのデブを思い出す。


そして私は「無理です」と、はっきり断った。


冗談じゃない。


あんなやつとデートするくらいなら、死んだほうがマシだ。


『それですと、日替わり彼氏そのものを辞退して頂きます』


「辞退って、辞めろってこと?」


『はい。全ての曜日の彼氏候補とデートをして頂き、最終的に1人を選ぶ、これが規則となっています』


「いや、あれは選ばないって」と口に出しかけたけど、言っても無理な空気だった。ここで辞退して、せっかくゲットしかけたイケメン彼氏を手放すのはもったいない。


放っておいても、拓也か真司くんのどちらかを選ぶことはできるんだ。


ここは我慢して、デートするしかないのか__。


「ごめん、ちょっと用事できたから」


弥恵に断りを入れて、私は来た道を戻った。


その足取りは、鉛のように重たかったけど。


< 29 / 142 >

この作品をシェア

pagetop