日替わり彼氏
「やぁ、よろしくね」
車のドアを開けてくれた、水曜日の彼氏候補__増田順一と目を合わさずに、私は車に乗り込んだ。
あまり詳しくはないけど、高級車っぽい。
ということは、お金持ちなのか?
「ぼ、僕は、増田順一。今日は1日よろしくね」
緊張しているのか、吃(ども)りながら自己紹介をする。
私は軽く頭を下げた。
臭い。
禿げてるくせに、整髪料の匂いが充満してて吐きそうだ。
なるべく息を止めて、時間が早く過ぎ去るのを待った。
どれだけ金持ちでも、無理なものは無理。
車を走らせる間も、増田は喋りっぱなしだ。
34歳で、親の会社に勤めているらしい。いずれそのゲーム会社を引き継いで社長になるので、花嫁候補を探しているという。
恋人を通り越して結婚とか、頭やんでるな。
たぶん、童貞。
バーチャルな世界にしか興味がなくて、半分は引きこもりっぽい。そりゃ彼女なんかできるわけないわ。日替わり彼氏をやったところで無理な話。
ようやく悪臭から解放された私は、思い切り外の空気を吸い込んだ。
着いた先は、有名人が御用達のなかなか予約が取れないレストランだった。
1回は行ってみたいと思っていたので、少しだけテンションが上がる。
ほんの少しだけ。